27.九州の山々(3)

霧島山(きりしまやま)は九州南部の鹿児島県と宮城県県境付近に広がる火山群の総称であり、最高峰の韓国岳(標高1,700m)と、霊峰高千穂峰(標高1,574m)の間や周辺に山々が連なって山塊を成している。 高千穂峰登山口に車を止め登山を始めたのは未だ8時前であった。前日中に近くまで来て宿を取ったのが正解であった。その日は前日と違って日本晴れでとても爽やかな気分となった。

ここは神話の山、天皇神格化の思想と直結しているように思われて、神殿、 礼拝所の類いの前は避けて、脇道から歩き始めた。潅木帯が切れると、道は赤茶けた岩塊の急登となる。急坂を登り切ったところが馬の背越、生々しい噴火口の縁を行くと高千穂峰が姿をあらわしてきた。ピラミッドを置いたような姿だ。後ろには霧島連峰中岳から新燃岳が見えるが、韓国岳は望めなかった。 火口から少し下りた鞍部からの登りは砂轢の急斜面で足をとられ非常に歩きにくい。二歩登っては一歩滑り落ちる感じである。悪戦苦闘の末に頂上に到着した。天孫降臨の地といわれ、神域として立ち入り禁止の縄で囲まれた中にある天の逆鉾を見て一息ついた。山頂からの眺めは素晴らしかった。

高千穂峰から降りると途中の山はとばして韓国岳登山口へと向かった。霧島連峰の最高峰韓国岳にはどうしても登りたいと思っていた。  登山口は硫黄山の麓にあって、ここから硫化水素の強い臭いが鼻をつく噴気を気にしながらしばらく行くと登山道となる。韓担岳の山頂目指しがむしゃらに足を進める。潅木帯を抜けると開けた尾根となり、岩や石ころだらけの道に変わっていった。五合目とか七合目とか標柱が目に入る。 山頂の『韓国岳』標柱は、岩の中に風雨にさらされていた。標高差は500メートル、1時間半程の比較的楽な登りであった。霧が去来する山頂は視界が悪く九州山群随一といわれる展望を得られなかった。残念だが早々に下山することとした。  

車に飛び込み宿で用意してもらった弁当を食べながら次の目的地の開聞岳へと向かった。開聞岳のある指宿市に近づくとやたらに道が混雑してきた。ガソリンスタンドで聞くと「今、指宿にタイガーウッズが来ているんですよ」言う。そういえば丁度指宿で大きなゴルフトーナメントが開催されていたことを思い出して納得した。

間もなく前方に待望の開聞岳が姿をあらわした。頂上に雲を乗せてはいるが、 ほぼその全容を見ることができる。こじんまりしているが、その姿はさすが薩摩富士呼ばれるにふさわしい姿をしている。高さはたったの922メートルである。日本百名山の中でも1000メートルに満たない山は筑波山の876メートルと開聞岳だけである。しかしほぼ海岸線から登るのであるから標高差は確りあるので侮れない。登山道は山を螺旋系に回りながら登ってゆく。潅木の茂った道は蒸し暑く上着を脱いで下着1枚になって歩いた。足場の悪い岩場をひと登りすると、『頂上まで25分』の表示がある。表示どおり25分かかって頂上に到着した。見晴らしはかなり良くその内挑戦する予定の屋久島の宮之浦方面を確認して下りにかかった。

これで今回九州山旅の予定が全部無事終了、安堵感が広がる。その日は指宿の国民休暇村に泊まり砂風呂に入ってゆっくり身体を休め、翌日鹿児島から空路東京へ戻った。