3. もう山になんか登らないぞ

中学2年の秋だった。学年のクラスで東京都の最高峰雲取山に登ることになった。山などに興味がなかったのに参加したのであるから全員参加の行事だったのだろう。 友人からよく「今まで登った山で1番素晴らしかったのは?」とか「1番きつかったのは?」との質問を受ける。印象の良し悪しはいろいろな条件によって決まる。一回目の登山でつまらない山と思っても次に登って見ると全く違う印象で素晴らしい山になってしまうことは往々にしてある。山に登る季節、天候、体調、意欲、同行者、そして選んだ登山ルート等がその時の印象に大きく作用する。私の場合は体調万全で紅葉の真っ盛り、秋晴れの中、家内と登った八甲田山は今まで登った山の中で一番である。さて、話を雲取山にもどそう。どの山が一番厳しいですか?(客観的な問い)との質問であれば答えは違ってくるがどの山が一番厳しかったですか?(主観的な問い)との質問であれば私は躊躇なく雲取山と答える。こんなに苦労して登った山は後にも先にも他にはない。疲労困憊で途中何度となく足が上げられなくなり動けなくなる。三峰口から登ったのであるが行けども行けども新たな尾根が出てきて頂上につかない。引率の先生から登りはあとひとつ、あとひとつと何回も何回も励まされてはだまされ、しまいには先生が狼少年になったように思えてくる。その時の悪夢はトラウマとして残り続け今でも雲取山には登る意欲も湧いてこない。もう二度と山になんか登らないぞと思ったのはこの時である。

最近になって自分よりも体力がないと思われる人達がそれ程苦労せずに雲取山に登ってくる。何故だ? 自分なりに答えを出してみる。雲取山に連れて行かれた時、体重32kg、肺活量2400cc(18歳で蓄膿症の手術を受けるまで鼻の奥の酸素吸入口が幼児のものと思われるほどの大きさあった)。登山意欲はゼロ。靴は運動会用の普通の平べったい運動靴で親指部分が擦り切れて穴があいている。リュックは三峰登山口に着く前に切れてしまい引率の先生にひもで結んでもらう。正に悪条件下での登山であったのは間違いない。こう考えて納得してみても未だに雲取山に再挑戦する気になれないでいる。それを機に私はもう二度と山には登らないぞと心に決めたのであった。