8. 登山の嫌なところと大変なところ

山に登って何が楽しいのですか? とはよく訊かれる質問である。確かにいやなことが山ほどある。まず、早起きしなければならないこと。山小屋泊まりの縦走にでもなれば3時ごろから起きだし4時前には懐中電灯で足元を照らして出発する。そんな時に限って大いびきをかく奴や歯軋りのうるさい輩と同宿となる。睡眠管理と排泄管理は登山する者にとっての大問題である。寝具が湿っていたり暑すぎたり、寒すぎたりすれば神経質な人間は寝られたものではない。又、排泄物は小の方は山の中でも問題ないが大となるどこでもよいというわけにいかず適当な場所が見つかるまで痛い腹を抱えて辛い行軍が続く。という訳で出発前に是非とも済ませておくべきなのだが普段と違う早朝にうまく排泄できるかが問題なのである。山小屋の便所は混んでいることが多いしグループで登山している場合は長い時間待たせるわけにはいかないので短時間で済ませる必要がある。便秘症の家内が羨ましくなるのはこんな時である。山に登り始めると20〜30分で汗が出てきて身体中グショグショしてくる。気持ち悪いことこの上ない。

真夏の尾根歩きは直射日光にあたり頭がクラクラしてくる、喉もからからになる。そんな時には水を多めに持って行くのだが重量がかさんで登りがきつくなる。次に問題となるのは靴擦れだ。どんなに足に合わせて買ったつもりでも急登や急な下りが続くような山に行けば早かれ遅かれ足のどこかがすれて痛みだす。何時間歩いても何処も痛くならないような既製登山靴にあたる事は期待できない。そこで各自工夫をする。敷き革の厚みを調節したり、足と靴との間にパットを貼り付けて足を保護する。そういう努力をしても登山し始めて2−3時間で痛みが出てくる靴、5−6時間くらいまでは大丈夫な靴ということになる。そのような履いてゆく靴の許容時間を越えて歩くときには少しでも痛くなりかかったらすぐ靴を脱いで足の痛む部分にテーピングすることが肝心である。早めの手当てを怠って歩き続けると痛みのため歩行困難になることすらある。

又、強風や激しい雨の中での山行も大変である。雨具や懐中電灯は登山の際の携帯必需品であるが雨具を着ると蒸し風呂に入ったようで汗でぐしゃぐしゃになる上岩場や木の根っこがつるつるして一歩一歩神経を使うことこの上ない。ある時五日間山に入りその期間毎日連続して土砂降りにあったことがある。夜はテントの中まで水が流れ込み一晩中水をかき出す作業で寝ることが出来なかった。もう二度とあんな目には会いたくない。ただ、それ以降ちょっとした悪天候などはなんでもないと感じるようになったことは確かだ。とにかくこんなに嫌な事の多い山登りに何故出かけるのか自分ながら答えが出せずにいる。