15.高妻山

高妻山はまっすぐに頂上を目指さずに遠回りして、さらにアップダウンが続き、最後は相当な急登があるので、百名山の中でも難関の山と評価している人が多い。通常の登山路は
戸隠牧場から入り一不動に始まり、二釈迦、三文殊、四普賢、五地蔵岳、六弥勒七観音、八薬師、九勢司と九つのアップダウンを経て十阿弥陀高妻山となるが、未だ途中である。十一、十二と来て、十三虚空蔵の乙妻山で始めて完結する。山登りなので登りは当然だが、あいだに下りがあると「何で下がっちゃうの」と恨めしくなる。多少楽なアップダウンを含んでいるとしても九つもあるともううんざりする。似たような体験は雲取山登山の時と五竜岳からの遠見尾根へ下った時に味わって以来のものである。

高妻山は家内も登っていなかったので二人して出かけることになった。体調が良く天候も良い時を選んで戸隠の宿坊に前泊し登山日の早朝戸隠牧場へと車を走らせた。牧場には既に数人の登山者が登山の準備を始めていた。我々は靴を履き替えるだけで登山準備は完了。直ちに牧場の柵を超え登山道へ向かうと家族で高妻山へ向かっている一行に追いついた。道を譲ってくれたので「お先に失礼」と声をかけて先に進んだ。私と家内は一時間に5分休憩を取るペースで登るので中高年の登山者としては早い方かもしれない。

アップダウンが多いので牧場から山頂までの単純な標高差より相当長い距離を登ったことになるが各アップダウンには石仏があり何処まで登ったのかがはっきり解る。 これが反対に大きなはげみとなりペースを崩さずに進めた。高妻山山頂には標準登山時間よりかなり短い時間でたどり着けたのはそのせいかもしれない。頂上からの北アルプス妙高、火打、焼山等々の展望は素晴らしかった。弁当を食べるにはちょっと早すぎる時間だった。

初めは高妻山だけで引き返すつもりであったが時間が余りすぎてもったいない。一寸きついが乙妻山まで行ってみようという事になった。こういう時二人だと直ぐ決断できるのが嬉しい。高妻山から乙妻山までは標高差はほとんど無いのだがスリリングな岩場が続き神経を使う。一時間弱で乙妻山山頂に到着。乙妻山山頂からの高妻山の山容は見事である。

高妻山から先に足を伸ばす人はかなり少なく、静かな山頂であった。大部分の人は高妻山だけで下山するが、それは乙妻山まで足を伸ばすのは日帰りの行程としてはきつ過ぎるという事らしい。我々は苦労したおかげで喧噪の高妻でなく静かな乙妻山頂でゆっくり休むことが出来たのである。高妻山から乙妻山までは行きと同じく一時弱で戻り、一気に下山を開始した。牧場近くまで来ると高妻山だけで引き返してきた件の家族一行に追いついた。乙妻山まで言ってきたと告げるとあきれた顔して「凄い健脚ですね」と言われた。私もついに健脚の仲間入りをしたようである。登山前に難しい山だと聞かされていると覚悟がきまって気合が入り楽勝するケースが多いみたいである。