19.山で出会う怖いもの、煩わしいもの(3)

落石も下手をすると命取りになる。山を登っているとちょっとした弾みで石を蹴落としてしまうことがある。蹴落とした登山者は即「ラク!」と言って後続の登山者に警告を発することになっているが石に弾みがついて勢いを増して落ちてゆくと大変に危険である。登山者が蹴落とす石はあまり大きくないので大事に至ることはあまり考えられないが富士山や白馬の大雪渓等でかなり長い距離転がり落ちてくる石はたとえこぶし大ほどのものでも当たれば命を落としかねない。 特に雪渓を転がり落ちて来る石は音がしないから時々上方周囲に細心の注意を払って進む必要がある。

強風も又厄介なものである。風の通り道になっているような尾根では身動きできなくなることがある。先に進もうと思って片足を持ち上げると体が流されてしまう。唐松岳から五龍岳に向かう途中、尾根の大きな岩道に差し掛かった時であった。雨と強風の為に足が動かせなくなったのである。歩こうとすれば間違いなく吹き飛ばされ尾根から転落すると思われ身動きが出来なくなった。結局、長い時間をかけ身を低くし、すり足で安全な場所まで少しづつ移動したのであるが、その時の恐怖は今思い出してもぞっとする。もし、長い間動けずにいれば低体温に陥りかねないのである。

濃霧で道を誤り山で遭難する登山者は多い。山の天候は変わりやすくしかもその変化は急激である。さっきまで晴れていたのに一瞬にして霧が出て来て、周りが見えなくなることは往々にして起こりうる。特に午後になると霧が多くなるのが常である。そんなわけで山頂での良い展望を望むのであれば午前中に(出来れば10時ごろまでに)山頂にたどり着くよう計画する。又、山で泊まるなら山小屋には午後3時までには着くようにするのが登山の常識のようである。もし霧にまかれたら、必ず晴れ間が現れるのだから慌てずに時を待つ、要は地図とコンパスを持つこと、そして使い方に慣れておくことが大切である。