21.谷川岳

谷川岳と聞くと大変きつい山だと思う人が多い筈である。私もその一人であった。世界で一番死者を出していることで有名な一の倉沢の岸壁があるからである。しかしながらロッククライミングを目的とするのでなければむしろ易しい山なのである。土合からロープウエイで天神平まで行けばそこから谷川岳(1963m)までの登山道は天候さえ良ければ無理なく歩ける。

秋のある日、朝起きて秋晴れの空を見て家内に「これから谷川岳に行ってみようか?」と言われた時私は一瞬ひるんだ。大変な話ばかり聞いていたからである。しかし落ち着いて山の地図で調べてみると谷川岳の頂上は2000mもないことが分かった。家内と私はいつでも気が向いたら山に行けるように登山用の準備を整えてあるので行くと決めれば30分もかけずに出発できる。朝未だ早かったので早速車に飛び込み谷川岳ロープウエイの麓駅に向かった。1時間ほどで土合に到着しロープウエイに乗った。

ロープウエイで天神平に着くと雲ひとつ無い晴天で眼下には紅葉に輝く山々が広がっていた。そこからの尾根伝いの登山道は爽快で疲れを感じる前にトマノ耳に着いてしまったのである。ところが大したこと無いと思ったのはそこまでで下山で大変な思いをすることとなったのである。

帰りはロープウエイなど使わずに西黒尾根を下ろうと言うことになったのだが下りだすと岩場が多く、しかも天気なのにどういうわけか岩の表面がぬるぬるしていて滑りやすくなっていた。所々岩に足場用の刻みがついていたのだが全く私の歩幅に合わず大きな岩を腰をかがめてずり降りねばならないところが多くて非常に時間が掛かってしまった。下りの得意な家内はそんなところでも結構な速さで降りていってしまう。初めの内こそ途中で待ってくれたのだがその内私の視界からきえてしまうことがおおくなって、私はますます焦ってしまったのである。もっとも家内も後では「あそこはきつかったわね」と言ってくれたが3時間余の悪戦苦闘は二度と挑戦したくないものとして記憶に残っている。私にとっては百名山登山を通じて下りでは西黒尾根ははダントツの苦しさであった。