29.屋久島(2)

淀川登山口から登り始めて暫くすると雨が上がって薄日がさしてきた。皆、早速雨具を脱いで軽快な歩みとなってきた。40分も歩くと淀川小屋である。小屋は木造中二階で綺麗に清掃されていたが子供ずれの外人家族が炊飯の準備をしていた。我々も水飲み時間とし一寸椅子に座りその家族と話をしたのであるが話しているうちに相手がひどい風邪をひいている事に気がついた。風邪をひいている人の出す独特の臭いが周りの空気に充満していたのだ。いやな予感がした。

そこから一時間弱登って綺麗な高層湿原小花之江河を通過する頃には太陽が出て来て小春日和となった。それから更に一時間ほど歩いて尾根に出た時だった。可愛い一匹の小鹿が登山道脇に飛び出してきた。茶色の毛に白い斑点がある正にデズニー映画のバンビである。人に慣れているのか手を出しても逃げない。心和む動物との出会いであった。

天気が良くなったおかげで昼一寸すぎには宮之浦岳頂上(1,935m)に立つことが出来たのである。頂上からは永田岳や青い海が展望でき幸せな気分となる。宮之浦岳登山は距離があって大変だと聞いていたわりにはあっさり登れてしまった感がある。そこからの下りはるんるん気分で歩け、明るいうちに新高塚小屋に着いた。ところがその夜から急に熱が出てきて、激しい咳が始まった。寝袋に潜り込んでも連続的に咳が続き同宿の登山者達に大変な迷惑を掛けてしまったのである。