31.光(テカリ)岳に登る

静岡県と長野県にまたがる光岳はテカリ岳と読む。頂上近辺に白く光っている大きな岩があるところから来ている名前だそうだ。 百名山を目指す人にはこの山を最後の方に残す方が多い。残すというよりはなかなか他の山を登ったついでには行きにくい所に位置しているのでついつい後回しになるというのが本当のところであろう。幸い家内も未だ登っていなかったので積極的に付き合ってくれることとなった。私が登っていて家内が登っていなかった唯一の山であった聖岳にも回ることで話がついた。便ヶ島の聖光小屋まで車で行きそこから光岳に登り、光岳の小屋に泊まって次の日に聖小屋まで行き三日目に聖岳に登って下山するという計画である。

このルートで一つ大きな問題があった。便ヶ島の聖光小屋に前泊して登るのであるが登山口から陽老岳の尾根に出るまでの樹林地帯には無数の蛭(ヒル)が待ち構えていて登山者に襲いかかると言う。光岳に登った人の手記を読むと必ずといってよいほど蛭の話が出てくるぐらいであるからかなりの名所なのであろう。それでなくても虫に襲われやすい体質の家内は虫とヒル対策の準備に神経を尖らせる。頭から被るネットやヒル退治のスプレーを買ってくる。現に前泊した聖光小屋で下山してきた一人の登山者の腹部にヒルが食いついているのを見せられて恐れをなした。ヒルが衣服の上から侵入し皮膚にまで達していたのである。

確かに長時間かかる登りのきつい山であったが光岳の山小屋に着くと既に6−7人の登山者がいた。早めの夕食をいただきながら同宿の皆さんとの団欒のひと時は楽しいものであるがそこで驚いたことがある。 私は光岳が百名山の90番目に登った山であったがそこに集まっていたのは99番目、97番目、95番目、91番目が二人といった具合で皆私より百名山先行者達ばかりであったのだ。要するに光岳はどうしても後回しになる山らしい。翌日も晴天で聖岳小屋まで順調に歩けた。以前3000m級の山として友人と登った聖岳は霧のため視界ゼロでなんとつまらない山かと思ったが今回は見晴らしもよくなんと素晴らしい山かと思う。山というのは登った時の条件でこんなにも違ってくるものなのだ。

幸いなことにあれほど心配していた蛭にもやられずに3日間歩けてなんとなく拍子抜けした感じがするが光岳を終えて百名山完登がやっと見えてきた感じであった。