37.朝日岳登頂と百名山完登

朝日連峰の登山道入口にある山小屋の「朝陽館」は家内からよく話を聞いていたので一度は泊まってみたいと思っていたところである。 大江町の山奥に位置していて、いかにも隠れた温泉という雰囲気である。 宿の駐車場までのアプローチは舗装路なので車でなんなく到着可能だが、そこから宿までは5分ほど歩かねばならない。

到着すると早速温泉に入るようにすすめられた。温泉は鉱泉を薪で加熱したもので、鄙びた風呂場には長方形浴槽がひとつ。二つに仕切られたもので、一方には程よく過熱された湯、もう一方には冷たい源泉が流し込まれている。この湯は入浴中は勿論、浴後もお肌がツルツルになるという嬉しいものだった。 入浴後の食事も宿の御主人が採ってくる山菜は新鮮そのもので美味しいものであった。 ビールを飲んで宿前の清流のせせらぎを聞きながら床に就いた。

翌日になると4人の仲間の内2人が前日の飯豊山登山の疲れが取れず宿で休んでいたいと言い出した。結局、笠ヶ岳黒部五郎岳薬師岳縦走に付き合ってくれた二人と日帰りで朝日岳に登ってくることになった。 可なりきつい登りであったが7時間強で往復してしまった。 無我夢中で歩いたので登ったと言う以外の記憶が無いのが不思議である。同行してくれた二人と飯豊山に再挑戦することを決めたのはこの時であった。

百名山最後の飯豊山にはこの友人二人と9月9日に別ルート(川入登山口)より再挑戦し登頂に 成功した。尾根ずたいの長い登りであったがこのルートでは雪渓にであうこともなく本山小屋に着いた。そこで軽装になり頂上に向かった。 主峰の飯豊山の頂上に着いた時であった。 K君がおもむろにデイバックから取り出したものがある。見ると「百名山完登おめでとう」と描いてある横断幕であった。私のためにわざわざ作って持ってきてくれたのであった。 とても嬉しかった。 その時撮って貰った写真は今でも大切に保管している。

このようにして私の百名山は完結したのであるが一つだけ問題が残ってしまった。暫くうちの山ノ神のご機嫌が悪かったのである。 後で分かったのは100番目の山を朝日岳に決めた時に家内は一緒に登って私の百名山完登を見届けるつもりになっていたのだ。 いつも私の登山には無関心の振りをしていた家内だが山嫌いだった私の百名山完登を楽しみにしていたのだ。それを思うと心が痛むがこうなればいつの日か家内が残している百番目の山、甲武信岳に一緒に登って彼女の百名山完登を喜び合いたいと思っている。